取締役稲垣 亮祐 ×背景美術 齋藤緋沙子の対談を公開しました
人の数だけ「やってみたいこと」がそれぞれある。「やってみたいこと」に向かって歩む人たちに
「どのような教育をしていきたいか」も、教える側のそれぞれに考えがある。そんな中、 YostarPic
tures取締役の稲垣 亮祐が「人に教える、人を育てる」「美術班の設立について」の2つをテーマに
対談しました。
対談相手は、当社のPV/TVシリーズ作品や、他社の映画作品の美術などに現役で活躍し続けながら、
ワークショップの講師も務める齋藤緋沙子。
会社の創設以前から共にアニメを作り続けてきた2人のロングインタビューを公開!
「人に教える、人を育てる」とは
ーー 教育というテーマを兼ねて、はじめにYostar Picturesの教導部についての質問をさせてください。創設時からアニメーターの教導部がありますが、最初から作っておこうと思ったのには何かきっかけがあったのでしょうか?
稲垣:アニメ会社に限らずどの会社でも人を育てることは必要とされているので、部署を置いたことは、取り分け珍しくないと思います。ただ、自分が作った会社に仲間が居着いて欲しいという思いはありました。新人の頃に育てられた場所や、教えられたことって良いことも悪いことも、すごい残っていくじゃないですか。最初の場所で教えられることって愛着や思い入れがあるから大切にしたいですし、ここに居たいって思ってもらうためには、育てることが基本的に大切になってくるとも思っています。
ーー お二人が業界に入った頃の、こういうことを教えてもらったな、というエピソードはありますか?
稲垣:僕が制作を始めた時代は、習うより慣れていく感じが多かったと思うんで、ちゃんと教えてもらったかというと教えてもらってないかも(笑)
齋藤:私も下積み時代に教えてもらったことや体感したことは何十年経っても忘れられないな、というのはありますね。背中を見て…っていう雰囲気を感じていました。
稲垣:そうですね…わからないことがあっても聞きにくい雰囲気、みたいなものもあったかと思います。自分の会社では、みんなで一緒に作っている意識を持った仲間が欲しいので、わからないことがあったら聞ける環境にしていきたいと思ってました。
齋藤:私もその時に「もうちょっとこういう風だったらよかった」と感じたことを、人に教える時とか、若い人と話す時に気をつけるようにはしています。
稲垣:それから、教える側も教わる側も、お互いが仲間である意識を高めながら育って欲しいと思っています。なので、新人の方にもリスペクトや、思い入れを持ってもらえたら嬉しいです。会社は一つの家ですから、家に居着いてもらいたいな、と…。そうじゃないと僕が家を作った意味も無くなっちゃいますからね(笑)
ーー 稲垣さんが今まで受けているインタビューからも「やりたいことがあったら、やってみよう」と言うマインドが根本にあるのを感じていますが、「人を育てること」に対しても特別な思いがあったりするのでしょうか?
稲垣:さっきのお話しとも重なるのですが、仲間意識を持って仕事をして欲しくて 「愛着だったり、思い入れを持ってもらうこと」が、人を育てるってことなのかなぁ…。みんながみんな、同じことやりたい訳ではないと思うんですけど、それぞれがやりたいことをやりつつも、仲間が頑張っていて手伝って欲しいって言われたら、手伝ってあげれるような関係でいて欲しいですね。
「スタンドプレーから生じる、チームワーク」 この台詞が好きでよく使ってるんですけど、求められているのはこれだなと思っています。「仲間がいるから誰かがやってくれる」という人任せなチームではなく「自分が動いて仲間を助ける」っていうチーム。そういうチームプレーをみんなでできると、仲間も助けられるし、自分のやりたいこともできるし…つまりは、最高じゃん?(笑)
齋藤:最高じゃん!(笑)急にギャルになりましたね(笑)アニメを作る時って、一人一人はクリエイターなんですけど、結局チームなので「自分だけよければ良い」って訳じゃないので、稲垣さんが仰ったみたいに、みんなでチームという考えは自分も同じだなと思いました。
ーー “教える”といっても、新人教育と違ってワークショップは一般的に楽しむことがメインのイメージなんですが、講師をしてみて齋藤さんはどのようなことを感じてますか?
齋藤:現場に近い本格的な内容を教えることができているのは、参加者の方々が学ぼうと、積極的な姿勢を見せてくれるお陰でもあると思っています。業界に興味があって、背景をやりたいという気持ちで参加してくれるので、指導の方も積極的に挑めています。
稲垣:教わる側の姿勢は、教える側のモチベーションにも繋がりますよね。
齋藤:そうなんですよね。凄く有り難く思っています。また、活動を応援してくれる同業者の方がいることも励みになっています!今後も続けていくことによって更にこの活動を知ってもらえたら嬉しいなと思います。
ーー 稲垣さんも講師として専門学校で登壇されていますが、生徒さんに向けて意識して伝えていることはありますか?
稲垣: これも、やりたいことをやってみようと重なる部分なんですが、「やりたいなら形にしてみよう」という話ですかね。アニメーターになりたい、美術をやりたい、制作をやりたい、「やりたい」という気持ちがあるならとにかくやってみて!ということを話しています。
そんなに上手くやろうとしなくても大丈夫。他の人と上手さで競わなくてもよくて、やりたい気持ちがあるなら何でもやってみる。例えば、たくさん描いて数を出すだけとか、完成させるだけでも力になります。作品にしてアップすれば誰かに引っかかる時代だと思うし、なんでもやり続けると意外と仕事になっていきます!
齋藤: 凄い人を見て落ち込むのではなく、「自分が何ができるかを知る」「自分が何をやりたいかを知る」ことが大切かもしれないですね。
稲垣:量で人を魅せるのは強いと思います。年に1枚しか出さない人よりかは1ヶ月で1枚出している人の方が人の目には残る。そして、そのモチベーションを維持することが大事ですよね。どんなに天才とか、うまい人でも、ずっと集中力が続くとは限らないので、上手いと言うのも大切だけど、それ以上にやり続けられる人も大切。なのでモチベーションを維持することがとても大切だと思っています。
齋藤:続けられることも、ほんっっっっっっっっと才能ですよね。
稲垣:そう!毎日会社に来るとかも本当に才能なんですよ!めちゃくちゃ優秀な人は引くて数多にはなっちゃうと思うんですけど、その人が真面目に仕事するかはわからないから勤労態度で差を付けるとか。勝てないと思う相手も同じ人間なんで、どこかしら勝てるところがあるから探してみて欲しいです。
ーー お二人には、モチベーションの維持方法や秘訣がありますか?
齋藤:モチベーションを保つのには…、私は苦労してます(笑)
普段意識しているのは、同じ作品の作業をやり続けないで、社内と社外の作品を含めて「とにかく色んな方と一緒に仕事をする」ことで新しい刺激をたくさんもらうようにしています。自分にとって勉強にもなるので、それもモチベーションに繋がります。あとは「小さい目標を立てていく」という感じですかね。
稲垣:僕は絵描きではないですが、みんな基本は同じなんじゃないかなと思います。新しい刺激を求めて、やったことないことをやって、やってみたいことにどんどん近づいていっちゃって、そして、成功もあれば失敗もあるという(笑)
やりたくないと思ったらそれまでで、成長することも必要なくなっちゃったりで、モチベーションも下がりやすい…。なので「自分のやりたいことを信じてやる」しかないんじゃないかなと思っています。
齋藤:稲垣さんがよく仰っている「やりたいことをやる」と言うのを会社で認めていただいているのは、本当にありがたいです。
稲垣:やりたいと思ったら挑戦して欲しいですね。けれども会社ではあるので、「会社の中で実現するために何が必要か」を考えることも、合わせて大切にして欲しいです。やりたいことをやるためには仲間が必要だし、スキルと実績も必要。じゃあ今どんなことから進められそうか、とか考えながら行動していく。仲間と実力をつけながら、そして、やりきって欲しいです。僕はそれを信じていたりするので。
齋藤:やっていいよと言われる側は「信用してくれている」と、思うじゃないですか。それに応えたいなって頑張れるし、相乗効果にもなっていると思ってます。
ーー Yostar Picturesで行っているワークショップについては、作画チームの活動含めてどのように思われていますか?
稲垣:会社が業務として依頼しているんじゃなくて、クリエイターからやりたいって声をもらってやっていると言うのが美しいと思っています。会社としては投資だったりボランティアであったりはするから、本当であれば制作の仕事に集中してもらった方がお金にはなってくる。けど、それでもやっぱりこういう活動は尊いと思っているし、いつか参加者の方とどこかで知り合ったりして「あの時、ワークショップで教えてもらったんで!」って、仕事手伝ってもらえたりなんかしたら、多分僕は泣きますよ。
ーー 今後、ワークショップの活動で期待していることはありますか?
稲垣:継続していって仲間になってくれる若い人を増やして行ってほしいと思っています。業界に入る前の人達に向けてる訳ですから「一緒に作ってくれる仲間が欲しい」と言う思いの根源的な活動ですよね。「自分達でも手が届く仕事なのかな?」と思っている人たちに、入口だけでも「アニメの制作現場ってこんなもんだな」って感じてもらえたら、業界にもとっつきやすくなると思うんですよ。
新しい人が入って来ないと、会社も業界も終わってしまう。なので、若い人が入って、その人がこの業界で活躍してくれるっていうだけでも会社を作った甲斐があるなって思えます。
美術班の設立について
ーー 制作現場に美術班があるのは珍しいと緋沙子さんから伺ったのですが、作るきっかけみたいなものが、ここにもあったのでしょうか?
稲垣:僕が業界に入った頃の現場は、制作と作画と演出だけみたいになりがちで、他のセクションは完全に別世界になってしまってました。一緒にやってうまくいかない時もあるから分かれていると言うのもありましたし、これは制作側の安易な考えかもしれないんですけど、「クリエイター同士で直接話してみたらわかる」部分もあると思うんです。
齋藤:他の部署の作業も見えるのは刺激になりますよね。アニメを作る工程が思っていたのと違ったりして衝撃を受けました。
稲垣:僕が緋沙子さんに出会った頃は、美術の上の方だけ制作さんや監督と話してるって感じでしたね。
齋藤:そうそう。背景会社と制作会社の関わりは、そこまで多くないので、自分の描いたものがその後どうやって動いているのか見えない部分が多く、不安になったりする時もありましたね。
稲垣:見えていないと蔑ろにされているんじゃないかとか心配になりますよね。自分がどれだけ死ぬ気で頑張って描いても使われないんじゃないかとか、そこはちゃんと大丈夫ですよ、とか返しがあれば、このままやって良いんだって自信にもなるんですけどね。
齋藤:稲垣さんと出会った当時は本当に色々大変でした…。だから、今の環境は本当にありがたいと思っていますし、自分も他のクリエイターの刺激になれるといいなって思っています。
ーー 他の部署の方が同じスタジオにいてよかったと感じた実体験はありますか?
齋藤:今のスタジオは撮影さんの席が近いのが面白いです。提出した背景がセルと合わないんじゃないかなっと思った時に、背景を受け取った撮影さんのところに直接行って「これ大丈夫ですか?」って聞いて「ここはこうやったから大丈夫ですよ」ってその場で画面を見せて貰ったり、何かあった時は直接話をして、必要なものがあればすぐに出す、というのができるのは皆でいるならではかなと思っています。
文章にしづらいけど気になっている部分も、同じ画面を一緒に見て指を挿しながら話すとニュアンスも伝えやすいですしね。「こういう時はどうすればいい?」とか今後の相談も直ぐにできるのも有り難かったです。
稲垣:アニメの制作工程は調べたらわかる時代ではあるんですが、現場や作業者の数だけやり方が多種多様にあったりもするので、今どうなのかを自分で確かめることも大切だと思ってます。緋沙子さんのように直接クリエイターに聞きに行けるのは良いですよね。そう言う環境下を各社作り出していると思っています。それもあって最近は各社に美術部がある会社が増えましたしね。
今は、部署を決めるのが難しいぐらい何でもできる、ジェネラリストって呼ばれるような人もすごく増えていますし、どのセクションもマルチな作業が求められてきているので、一緒にやらないと厳しくなって来ているのが制作現場の現状かと思います。
ーー 最後に、これから業界で働くことを目指す未来のクリエイターたちにメッセージをお願いします!
稲垣:先ず、アニメが作りたいと思った時、自分はどんな作品が作りたいかを考えてみて欲しいです。自分の世界を表現することがやりたいことベースなら、今は一人でもアニメが作れる時代になっているので、一人で作る方が自由度の高い作品が作れると思います。
そうじゃなく、TVシリーズを作りたいとか、アニメ制作会社に入るのが目標なら、そこには「人間社会に入るぞ!」っていう意識も必要になることも知って欲しいです。会社は一人で作れないからみんなで作ろうという組織なので、チームの一員である意識を持つことが大切。それから、人が必要としているものを作ることが仕事になるから、頂いたオーダーに応えて人を喜ばせることが第一になってきます。
齋藤:絵を描くことを仕事として目指すのであれば、それが自分じゃない誰かに届くと言う意識を持ってほしいですね。そうじゃなくて、自分が楽しく描きたいとなれば、稲垣さんが仰っていたように個人で作っていく方法だったり、選択肢が違ってくると思います。
全員ではないんですが、多くの人が背景の現場に入って1年目とかで落ち込む時が来るんですよね…。絵が描きたくて、絵が好きで入って来ているのですけど、好きなことって思い入れが強いから、仕事としてやらなきゃいけないギャップと苦しむことが多いと思うんです。自分は描くことに苦しんでいるのに、周りの人からは「好きなことやっていて良いね」なんて言われたりすることもあるんです。だから、もしも「絵が好きだな」「絵が描きたいな」と言う漠然とした思いで止まっているなら、そこから一歩進んで、「自分はどう言うものが作りたくて、今何を求めているのか」を考えて、そこから道を選んで行って欲しいです。
稲垣:自分のやりたいことは、ホワイトカラーかブルーカラーかみたいな話かもしれませんね。やりたいことが何か、それで食べていくにはどうすれば良いかを考えて、そして行動することが大切です。漫画でも、イラストでも、それで食べていきたいなら描いて出す、制作だったら描いて貰って世に出して貰うしかない。音楽でも食べ物でもそうだし「作って見せる」行動をしないと始まらないのはアニメに限ったことじゃないって思ってます。
齋藤:特に今は、自分が学生の頃と違ってインターネットを開けば色んな情報があって、選択肢が増えました。選択肢が増えれば迷うことも増えるし、自分のやりたいことを調べていたら嫌な情報が見えてくることもあると思います。けど、誰かがこう言っていたからこれはダメなんだって、そこで悲観的になるとかではなくて、「自分が良いと思うことを自分で選びながら」今の時代ならではの良さを活用して、伸び伸びやれるのが良いのかなって思います。
稲垣:今は本気でやっている若い人たちには、僕らなんかよりこれから先のことが見えていると思うんで、あまり偉そうなことは言えないんですけど、現場には現場ならではの面白さもあるんで、現場にいる人たちや、色んなものをうまく使って成長していって欲しいです!
そして、昨今色んなエンターテイメントがある中でも日本はアニメは強いと思っています。自分はアニメ制作がやりたい!と思った方がいたら是非ご一緒したいです!
インタビュー協力
YOSTAR PICTURES
稲垣 亮祐(取締役・プロデューサー)
https://yostar-pictures.co.jp/staff/detail/2172/
齋藤 緋沙子(美術・背景)
https://yostar-pictures.co.jp/staff/detail/2170/
<美術ワークショップインタビュー>
アナログ技法の基礎技術を学ぶワークショップを開いた意図とは?
https://yostar-pictures.co.jp/news/detail/2245/