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2023.04.19

INFO

背景美術ワークショップ講師 齋藤緋沙子インタビューを公開しました

2023年4月2日にYostar Pictures主催イベント『アニメワークショップキャラバン~2023 SPRING in TOKYO2023』を開催いたしました。
今回はアニメ制作の主流がデジタル化した時代に、あえてアナログ技法の基礎技術を学ぶワークショップを開いた意図を企画と講師担当の齋藤緋沙子さんに当日の感想を伺いながら、改めてお話いただきました。

<ワークショップ内容>=================
アニメ制作や背景美術のおはなし、画材の説明
実習①:2色でグラデーションを作ってみよう①
⇨描き方の説明なしで自由に描いてみる
実習②:2色でグラデーションを作ってみよう②
⇨基本的な手法を聞いたのち描いてみる
実習③:3色でグラデーションを作ってみよう
⇨空色ユーティリティの背景画を参考にしながら、3色グラデーションに挑戦
⇨背景の上にキャラ画を載せて、完成!
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■『アニメワークショップキャラバン~2023 SPRING in TOKYO2023』を終えて

 


ーー アニメワークショップキャラバン講師ご担当お疲れ様でした!齋藤さんがTwitterで呟いていたように、まさに楽しくてあっという間の時間でしたね。

齋藤緋沙子(以下:緋):始まる前までは3時間保つかな…、質問なかったらどうしよう…とか、色々と不安だったんですが、無事に終えることができて本当によかったです。

ーー アナログのグラデーションってすごくシンプルな作業ですが、実際に見ると、表現の幅が広くて奥深い世界だと感じました。
例えばアークナイツのPVは曇りのシーンが多いですが、一重に曇りと言っても、今から希望が見えてきそうな曇りや、絶望して光が消えた重厚な曇りなど色んな曇りがあって、それを描き分けられるのは基礎技術があってなんだなと思うと、基礎は大切なものだと改めて感じられました。

緋:ありがとうございます。そう感じて貰えるとやったかいがありました!

■参加者の成長の速さに驚き



ーー 参加してくれた3人は、実習の初めは絵の具の使い方に悩んでいる印象でしたけど、その後の成長スピードが凄まじくて、見ている側はビックリしました。

緋:そうですね。みなさん自分がうまく出来なかったことを言語化するのが上手だったので、アドバイスもしやすかったですし、アドバイスを反映しようと次の絵で挑戦してくれるので、描くたびに何かをものにしているのを感じ取れました。

ーー イベント後、周りからの反応などはありましたか?

緋:ワークショップのTweetを見た同業者の人たちに、結構本格的な内容をやったんだね!と言われて終わった後に確かに…と思いました。
2色を使って塗る時は、絵の具に触れてみようという感じだったんですが、3色のグラデーションになると現場研修でも行う本格的な内容だったので、使う色の数が変わった時は急にハードルが上がったと思います。

ーー ステップアップしながら、挫折までは行かない絶妙なバランスだったかと思います。見ている側からは色が増えた時、これは空、これは芝と、グラデーションの中に意味が生まれてきた印象を受けました。

緋:ワークショップで、アナログ技法を知ってもらうきっかけづくりをしたかったのですが、その根幹には、アナログの作業から「考えながら描くことの意味」を学んでもらいたい気持ちがありました。そのために、内容は想像しやすいシンプルさがある題材を選びました。表現したい背景をどうやって描いていくかを意識してもらえたのは、嬉しかったです。

ーー 3色のグラデーションに、参加者3人の個性が出ていたのも面白かったです。それぞれがもっている感性や、好きな絵の具の使い方などが感じ取れました。

緋:やりたいことは違うけど、みんな描くことへの熱量というのか、描く事にストイックに取り組んでくれたので、三者三様の個性が見える作品が仕上がったと思います。
教えている側にも発見や楽しさが沢山あって、本当に楽しかったです!

■キャラクター画を描いていた10代


ーー ワークショップ中のお話の中で実は、緋沙子さんは最初から背景美術をやろうとは思っていなかったというエピソードが面白かったです。初めはキャラクターデザインの学校に通われていたんですね。

緋:そうなんですよ。自分が10代の時にRPGゲームが大好きで、そこに出てくるキャラクターを描いてみたいと思ったんです。

ーー 背景美術はその道で行くんだと決め込んで、鍛錬していく職人のようなイメージでしたが、途中から入るのもありと言うことを知りました。

緋:そうなんです。どのセクションでも言えることとは思いますが、背景美術も例外なく途中から入ってきている方も多いんです。私の場合は、キャラクターを描きながら、そのキャラがいる世界観を考えるようになったことで、背景美術にたどり着きました。
世界観を作る為の情報を調べているうちに、自分の知らない世界の知識が増えていくことが楽しくなって、いつの間にか背景美術の世界に没頭していました。

ーー そこから、キャラクターデザインの学校の先生に「背景を描きたいです」とお話をされたと…

緋:はい(笑)今思えば、その先生がキャラクターデザインの学校なんだからキャラクターを描きなさいと言っていたら、どうなっていたんだろう…と思います。キャラクターデザインの学校に通いながら、隅っこの席で背景画を描かせてもらいました。
先生は「アニメの背景画のことは分からないよ。」と言いながらも、美大出身の方だったのでデッサンなどの基礎を教えてくれました。

ーー 背景美術の専門的な部分はどうやって学んで行ったんでしょうか?

緋:あとは自力で進むしかなかったので、現場を見学したりして学んでいきました。当時は今みたいに会社のHPなどがなかったので、アニメのスタッフロールをメモしてそれを頼りに直接電話で問い合わせていました。

ーー 当時のアニメ会社は、学生の見学を快く受け入れてくれるものだったんですか?

緋:会社によって対応は違いますけど、相手にされなかったり断られたりすることは普通でした。場所や人によって対応や作風が違うのはもちろん、作業の進め方や考え方もそれぞれ違っていましたね。

ーー そんな中で、一目惚れとも言える師匠との出会いがあった訳ですね。

緋:はい「絵が好き」というのがダダ漏れている人で、この人がいる場所で働きたい!!って思いました。そこから学校の先生に相談して、面談と試験を受けて入社に至りました。

ーー ここしかない!という感じだったんですね。

緋:私にとってはそうでした。だけど当時、一緒に見学を回っていた友人には、その会社が刺さらなかったみたいで、その子はその子で自分にささった別の会社に入社していました。その時も、人それぞれ好きなものや、求めているものって違うんだなぁと感じました。

ーー 人それぞれ違いがあるという話では、教え方も人によって違うというお話もされていましたね。

緋:教える人によって言っている事が違うのは、過去に自分が悩んでいた部分でした。昔は、描き方には正解があるはずだと思っていたので、誰が言っていることが正しいんだ!と頭を抱えていました。そういう自分の経緯もあって「やりやすい手法は、自分の中で見つけて行けば良いんだよ」というのは今回のワークショップで伝えたいことの一つでした。

ーー あの人が教えている描き方だから正しいとかではなく、大切なのは自分に合っているのかであり、それは自分の手で確かめて行くしかないということでしたね。

緋:みんなそれぞれ体の癖も考え方も違うから、描き方が違うのは普通なことなんですよね。結局、「正しい手法」というものはなくて「最終的に時間内で良いものを作れたらOK!」なんだって気がつきました。

■なぜアナログ技法の基礎技術だったのか



ーー 手法の違いの例として、今回のアナログとデジタルの対比はわかりやすかったです。これに関しても「デジタルの方が優れていて、アナログはやる意味がない。」とか「デジタル画に魅力を感じない。アナログこそが背景美術」とか、どっちが良いと優劣をつける必要はないということでしたね。

緋:どちらにも良さがあるので両方使う方もいます。例えば私も自然物はアナログで、人工物はデジタル、など両方使ったりすることもあります。ここに関しても、背景画は両方使うのが良い!ということを言いたいわけではないんですけど、双方の長所と短所を理解した上でどっちにしようかな?と考えて、手法を選んでいくのは大切だと思っています。

ーー それでもデジタルツールが発達している現代ですので、絵の具が効率的には思えない、アナログ感もデジタルで出せるし、今の時代に及んでアナログでやる意味が分からない、というような意見もあるかと思うのですが、その辺りはどう思われますか?

緋:「時代という理由で流れる」のではなく「自分が考える責任」を持っていれば問題ないと思います。「考えなくても楽にそれらしいものができる」ことだけを理由にデジタルを選んでいると、応用を効かせたオーダーに対応していく時などに行き詰まってしまうと思います。ツールが先行した制作の場合も、「出来たものがどうしてそういうふうに見えるのか」を考えるようにしていくことは、大切にしていきたいと思っています。

ーー 考えて描くことの大切さは、映画タイトルの背景美術の原本を見ながらエピソードを聞いている時に特に伝わってきました。人を惹きつける作品を作る監督ほど、作りたい世界が明確でオーダーが複雑なので、理解して描く力がないと付いていけないように感じました。

緋:手を動かせば色は着くのですが、監督や演出が意図していることを伝える背景にできるかは、理解の深さや視野の広さで違ってきます。考えることは制作の要と言っても良いほど大切な工程です。

ーー アニメに限らず、作った本人が理解していないものとしているものは、説得力が違いますよね。例えば旅行の案内なんかでも、その場所の歴史や文化の知識があったり、実際に行った事がある人と行ったことがないし、よく知らないでただパンフレットの文章を読んで説明している人とでは、聞いている側の印象がだいぶ変わってきますよね。

緋:そうですね。質問や応用を求められた時に対応できるかにも影響していきますね。それは背景美術だけではなく、他のどの表現においても共通して言えることかと思います。

■描くことだけではなく世界観の責任者となること



ーー 理解して描くことが魅力のある背景画づくりに繋がっていくんですね。世界観に説得力がある作品はその世界に入り込みやすいですし、没入感があります。

緋:背景美術は描くだけではなく世界観を守る仕事でもあって、現実世界をリアルに描こうとしている中で、南極に椰子の木を描いてと言われたら、それは監督の思う世界観が壊れてしまうので、説明したり代案を出すことも時には必要になってきたりもします。なので、なんでも受け入れれば良いわけでも、なんでも描いて良いわけでもなくて「世界観を作る責任者」であると思いながら仕事をしています。

ーー 背景が描くだけの仕事ではない事を知ることができて、これからアニメを観る楽しみが増えました!今回は色々とお話しをお聞かせいただきありがとうございました!またワークショップも開催できることを願いながら、この辺りでインタビューを締めさせていただこうと思います。齋藤さん、本日はありがとうございました。

緋:ありがとうございました!


当日のイベントの様子をダイジェストにして、Yostar Pictures公式YouTubeにて公開中です。こちらも併せてご覧ください。

<【背景美術】 YostarPicturesアニメワークショップキャラバン~2023 SPRING in TOKYO~>

インタビュー協力=================
YOSTAR PICTURES
齋藤 緋沙子(美術・背景)

<YOSTAR PICTURES スタッフ紹介>
https://yostar-pictures.co.jp/staff/detail/2170/

<『立花慎之介のアニメをおかずにメシがうまい。』ゲスト回>
【おかずのすけ】美しき背景美術の極意!【9杯目】