TVアニメ『空色ユーティリティ』斉藤健吾監督のインタビューを公開しました
初のYostar Picturesオリジナル作品として3月に全12話の放送を終えたばかりのTVアニメ『空色ユーティリティ』。斉藤監督が自身のやりたい気持ちを実現した本作は、どのように創られていったのか?!インタビューを公開!
なぜ「ゴルフ」だったのか?
ーー 斉藤監督はゴルフの他にも色々と趣味をお持ちですよね。その中でもアニメにしたい!と思うほど「ゴルフ」に熱を持った理由はありますか?
斉藤:親孝行ができるというのが最初でしたね。それプラス、学生時代にアイスホッケーをずっとやっていたので、スポーツとして熱量高くハマれるものが欲しかったというのがあります。競技としてスコアという数字で自分がどれだけ上達していくのかを見れるし、親孝行にもなる。というのでかなり熱が入っていったっていうところですかね。
ーー ご両親ともゴルフをされているのでしょうか?
斉藤:両親2人とも競技ゴルフをやっています。実家帰った時に一緒にゴルフができるし、プレーしていない時でもゴルフの会話をすることがかなり増えましたね。それはすごく親孝行になっているかなって思っています。
HAMたちはどうやって生まれた?
ーー 美波のキャラクター設定はどのように作られていったのでしょうか?
斉藤:「あまり普段スポーツしない」という美波に近しい人たちに、もっとゴルフを知ってもらいたい気持ちが強かったです。なので、ゴルフとは何か正反対のものを持っている人が欲しいよねっていうのが最初だったかと思います。
ーー 短編の時から美波のゲーマー設定はあったのでしょうか?
斉藤:短編を作った時の最初期の美波は、ゲームもしてない趣味が一つもないキャラとして作っていましたね。1番最初はもっと暗めのイメージだったんですよ。学校も別に嫌いじゃないし楽しくないわけでもない、けど別に学校に行きたいとも思っていない、みたいなキャラ。そこから、テレビシリーズを作ることになって初期案がちょっと変わっていったかな。キャラクターの性格像を決めていくのは脚本会議で結構苦労した部分だったかなと思います。
ーー 他のキャラクターでも短編から設定が変わったキャラはいますか?
斉藤:特に大きいのは彩花かもしれないです。9話のお話はもっとナイーブでセンチメンタルなものにしようと最初はしていたんです。「お母さんにゴルフやめなさいって言われたから、私ゴルフやめるんだ…」みたいな…。
けれどそれって空ユにしてはセンチメンタル過ぎるんじゃないか?って話になって、そこから空ユとしてのキャラクターって、どんなキャラクターたちなんだろうって、またキャラクターの性格を洗い直しました。そこから、彩花の性格像を決めていくのが一番難しかった印象があります。
ーー キャラクターデザインの面で拘った部分はありますか?美波はHAMの中では年下と言うのもあって幼めの体型だと感じています…
斉藤:美波も別に幼くはなくて、年代なりのプロポーションかな。
ーー というと、遥と彩花がグラマーということでしょうか?!
斉藤:うーん…プロポーションとかを性的に描こうとかはあまりなかったかな。遥自身は競技ゴルフをしてたっていうゴルファーとしての体型を描きたかった。設定資料でも脚は筋肉質で太めに描いてくださいと書いていたし、作監修正でも結構太くしていた。
実は設定では、体幹がしっかりしてるからウェストも太いですって書いてあるんだけど、色んな人が描く中でウェストは細く描かれがちだった。それでウェストがキュッと絞られた分、わりと胸が強調されていたという部分は作画の面ではあるかな。
監督自身が作品に投影される
ーー 作品全体に「人の気持ちを否定しない世界観」を感じているのですが、斉藤監督ご自身にもそういう生き方がしたい、という思いがあるのでしょうか?
斉藤:そうですね。空ユ自体が自分の体験談だったり、自分の性格みたいな部分がかなり出ていると思っています。考え方が自分と違っても、そういう考え方もあるんだ、で終わらせるので、僕自身もあまり人の考え方を否定することはないですね。
ーー ご自身に似せたキャラクターなどもいたりするのでしょうか?
斉藤:そうですね、美波、遥、彩花の3人のキャラは、僕のそれぞれの感情を三等分したキャラのイメージだったりします。競技ゴルファーとして僕が思っていることや感じていることを遥に託したり、ファッションとかの楽しみを彩花に、美波には純粋に、歳上というか仲間とやるゴルフに楽しさを感じている部分を託しているというか…
ーー 監督自身もゴルフは歳上の方とやることが多いんですか?
斉藤:Xでも美波の後輩感とか妹感みたいなものってどうやって出しているんですか?と、質問をよくいただくんですけど、これは結構自分の経験から出ているものだなと思っています。僕は結構一人でゴルフに行くので、50、60、70代の人と組んでやることが多かったりします。その時に一番年下ってこともあって結構可愛がってくれる部分があって、僕自身そういうのを楽しんでいる。美波にもその気持ちでゴルフをさせています。
ーー そういった経験もあって、マサ、チョウ、テツというキャラも出てきたのでしょうか?
斉藤:仲間と楽しむゴルフの部分は「遥と彩花と一緒に」っていうのが一番。けど、マサ、チョウ、テツは年齢層も重なっているし、実際に僕が一緒にゴルフをやった人たちと近しい性格を置いているかな。
ーー 近しい性格とは、どのような部分でしょうか?
斉藤:特にテツとかは、1話で新しいドライバー買ったんですよって言ってるけど、あれはおそらく3、4ヶ月に1回は言ってるんですよ(笑)凄いギア好きで「ギアを変えてゴルフをする」と言う部分が楽しみになっている。そのライフワークもゴルフの楽しみ方の一つじゃないかなって思っていて、それでテツというキャラクターがいたりします。
ーー おじいちゃんたちは各々そうしたゴルフの楽しみ方を持っているから続けているんだろうな、と感じています
斉藤:実際に腰が曲がらなくて昔みたいに腰を回せなくて痛いっていう話も聞くんだけど、それでもゴルフを楽しんでらっしゃったりします。
ーー 今では監督は初心者をリードする側になっていると思うのですが、そう言う時はハンデをつけたりスクランブルゴルフをしたりするんでしょうか?
斉藤:例えば空ユのメンバーとゴルフに行った時なんかは、スコアを追求するとかではなくて4人で一緒に周りながら、「あっ、あんなのあるよ!」とか、「今のショットめっちゃうまくない?」「ここで写真撮ったらめっちゃ映えない?」とか、そういうことを話しながらゴルフをしましたね。なので、スコアとかはお互いあまり気にしてないかな。みんなで一緒にいる空間を楽しむってことをゴルフでやっている感じ。
ーー 同じぐらいの腕前の方とプレイするとなると、また違う楽しみ方になってくるのでしょうか?
斉藤:競技や試合の場面になってくると、練習の時より自分だけのゴルフに集中してスコアを出していくと言う感じですかね。
ーー ゴルフの中で目標などはあるのでしょうか?
斉藤:特に目標はないけど「誰よりもうまくなりたい!」とは思って常にゴルフはしています。例えば母親とかに、こういうところが上手くいかなかったんだよねって話をすると、そんなのプロじゃないんだからしょうがないよって言われるんです。そう言われると、プロじゃないとかアマチュアだからとかじゃなくて、できないことが悔しいんだ…!って思っちゃうんですよね(笑)そう思えることが僕としてのゴルフの楽しみの一つなのかな…その辺りは遥に似ているかも。
ーー なんだか斉藤監督らしいなと思いました…
斉藤:ていう側面もありつつ、なんですよ。やっぱ人間一つの感情を持っているだけではないので、そう言う部分もあるし、みんなで楽しくやりたいっていう部分もある!
ーー キャラクターの中で泉美の存在も印象的なのですが、泉美を出そうと思ったのはどう言う経緯があったのでしょうか?
斉藤:泉美は美波にとってのセーブポイントですね。美波はゴルフのことや学校外での出来事を要約して泉美に話す。学校という場所の立ち位置がそう言うものだったし、ある種で視聴者と同じ立ち位置でもあると思っています。
ーー 泉美は、友人として美波の成長を見守っていましたが、「私もゴルフをやりたい」とは、なりませんでしたね
斉藤:やりたくないものを無理矢理させるのは違うって言うのが僕の中にあって、美波自身も泉美にゴルフやろうよって言ったのは1回ぐらいだと思います。本人がやりたいってなったら一緒に行くだろうし、美波と泉美はお互いに自分のやりたいことを尊重している関係性ですね。
空ユならではの世界感はどうやって生まれた?
ーー 作品の中に意図せずに生まれた面白さのようなものはありますか?それとも意図した通りの作品が仕上がった!と言う感じでしょうか?
斉藤:意図しなかった部分はパッとは思い浮かばないけど、意図した部分は徹底的にストレスのないものを作りたいと言うのが常にあって、そこは結構意図して作れたと思っています。
例えば遥の過去にしても、彩花の9話にしても、もっとセンチメンタルだったりドラマティックな話にはできたと思う。だけど飽くまで主軸はそこではなくて、3人の関係値や3人の中に入ってくるゲストキャラとの関係値、ゲストキャラから受ける影響というのを描きたかった。
なので特に10話、11話は遥のセンチメンタルな話に行きそうだったんだけど、そこを深堀し過ぎないという部分は、特に意図して作ることができたと思っています。
ーー 11話では遥がプロ試験を受けることを知ることができ個人的に嬉しかったです…
斉藤:遥は、彩花と美波がいてくれるから競技ゴルフも楽しみながらやれるんじゃないかなって… 遥にとっては彩花と美波が、美波にとっての泉美のような立ち位置になってくるんじゃないかなって思います。
ーー 日向という、もう一人のキャラを出そうとしたのにはどのような経緯があったのでしょうか?
斉藤:たしか一番最初に望公太さんから出てた話だったんじゃないかな…。僕自身はロリキャラっぽい女の子を描きたかったというのがあって日向のキャラクターデザインが出てきました。
ーー 日向もまた監督の思いが投影されたキャラクターなのでしょうか?
斉藤:9話まではアマチュアとしてのゴルフをどうやって楽しんでいるのか、どうやって楽しまれているのかを描いていて、10話で「競技ゴルフってどんなもの?」っていう部分を日向に代弁してもらったのかな。空ユはゴルフにはそれぞれの楽しみ方があることを描いているので、アマチュアだから楽しいとかいうことじゃなくて「競技ゴルフもゴルフの一つの楽しみ方だよ!」というのを描きたかった。
ゴルフに対して美波たちとは結構真逆の価値観を持っている日向が感じていることもゴルフの楽しみ方の一つなんだって、美波が11話で否定をしないのもそういった意図があります。
ーー 他のインタビューで、感情を言葉にする表現はあまりしたくないと言うお話をされていて印象的だったのですが、もう少し深堀させていただけますでしょうか?
斉藤:絵の説明を文字でしたくないというのがクリエイターとしての感覚で、極力イラストの中に文字は入れたくないんですよね。文字で説明しちゃうと、僕の絵には説得力がありませんって言っているようなものに僕自身は近い。
映像に置いてもそれは一緒で、あまり感情を言葉で表現し過ぎてしまうと自分の中で負けかな、と思っちゃう。その感情を表すのが演出の仕事だったり、カット割の役割だったりとかするんじゃないかな。
ーー 作る側としては、感情の表現をそういう部分でしっかり作っていて、後は観る側がどう捉えるかという感じでしょうか?
斉藤:そうですね、観る人自身にも相手が何をどう思っているかを感じ取れる世の中にして欲しいってのはやっぱり常にあるかもしれません。
ーー 作品の捉え方は自由ではありますが、制作側として置いた意図と違う捉え方をされた時に悔しく思うことはあったりするのでしょうか?
斉藤:それは特にないですね。送り出した作品は送り出したものなので。やっぱり人それぞれ感じ得るものは違うんだなとは思ってはいるし、それに実際大半の方は空ユの中で僕の思っている通りのことを感じてくれているんじゃないかなと感じています。
ーー 最後に空色ユーティリティを観終わったファンに向けてメッセージをお願いします!
斉藤:12話の物語は終わったけど、それは空ユの終わりではないよ!美波、遥、彩花たち3人の物語はあの世界の中でまだまだずっと続いていく!
インタビュー協力
YOSTAR PICTURES
斉藤 健吾(取締役・監督・アニメーター)
https://yostar-pictures.co.jp/staff/detail/1731/